緑がちる

緑はいつか散ります。でもまた実るものです。ヴェルディ&FM日記(予定)

年の瀬に、音楽の話でも'23

毎年大みそかの恒例更新です。

 

 

その前に、ちょっとだけ今年の振り返り。

2023年はどんな年だったって問われたら、そりゃもう最高の年でしたよ!!以外の返しはないわけだが、本格的なアフターコロナ元年に東京ヴェルディのJ1復帰という瞬間に立ち会えたことは、完璧なタイミングだったのではないか、と改めて思う。

あの極上の歓喜の瞬間だって、声も出せず、マスク越しで、ひとつ席をとばして座る隣の人とグータッチ…なんて、すごく興が削がれただろうし。15年間押し殺し続けてきた悔しさを、余すことなくぶつけられるシチュエーションを授けてくれてほんとにもう…と神様に感謝したい気分である。が、無宗教の俺は何を拝んでいいのかわからないので、とりあえず号外に映る大泣きの森田晃樹に向かって手を合わせている。ありがたや。

 

昇格云々を抜きにしても、「10年来Jリーグデートをしている僕が思うこと。」とか「ヴェルディを追いかけ、水戸から東京まで歩いた話。」あたりの記事がきっかけで、自分の文章を色々な方に読んで頂けた年になった。これは素直に嬉しい。本当にほーんの少し、わずかばかりではあるが、FMや雑誌関連の依頼を頂いたりもして、なんというか書き手冥利に尽きる一年だったなあと。

理想を言えば、何も知らない人間を東京ヴェルディに巻き込めるような文章を書けたら最高なんだけど、こんな緑サポ&FMプレイヤー向けに特化した内輪向けのブログを、どうやってコミュニティ外に届けるのかがまず皆目見当もつかないし、そもそもそうした”バズ”に必要な、ユーモアだったりちょっとした毒だったりあるいは炎上要素だったりとか、そういったものを文に盛り込むのも苦手なので、まあ変な色気は出さず、これまで通り吐き出したいことだけここに綴っていければいいかなあなんて、思っている。

 

一方、ここ3年めっきりご無沙汰だった海外出張も一気に重なり、お仕事はとても忙しくなった。

完全に吹き飛んだのがゲームをする時間である

元々このブログはFootball Managerのプレイ日記をつけるために始めたものなのに、現状丸1年FMの記事を書けていない。というかせっかくJリーグが公式に搭載されたというのに、その新作に触れてすらいない。つらすぎる。

大袈裟な言い方になるけど、自分が意地でも譲り渡したくない時間を切り売りして仕事をしている感があって、まあそれが大人になるということだと思うし、今年30歳を迎えるまでそれに気づかなかったほどに置かれた環境に甘えていたのだと思うが、やっぱり葛藤はある。

でも、Jリーグの導入をきっかけに、日本人プレイヤーが上げるFM関連のコンテンツがこれまでとは桁違いの数になった。ヴェルディサポのツイートにも当たり前のように「FM」の文字が踊るようになったし、敬愛するまぐまぐまぐろん氏までプレイ動画を上げ始めたのは笑った。よく言っているが「他人のプレイ日記を読むのが好きだけど、あまりにもその数が少なすぎるから、自分で書き始めた」人間なので、こんな幸せな状況になったのだから、自分でプレイ日記を書くのは後回しでもいいか、とちょっと甘えた気持ちもある。

 

そうだ、音楽の話をするんだった。

昨年サマソニフジロックが完全復活し、今年はちょっとした外タレ来日ラッシュの様相を呈していたが、00年代メタルコアスクリーモど真ん中世代の俺にとっては、やはりKNOTFESTNEX FESTの開催がたまらなく嬉しかった。とりわけNEX FESTは衝撃だったなあ。BFMVの前座で来てた時の典型的エピタフ系デスコアバンドBring Me The Horizonが、東名阪回る大規模フェスのオーガナイザーになるほどビッグな存在になっちゃって…

今年聴いた音楽も、その2つのフェス出演者が多くを占めることになった。

それでは、前置きが長くなりましたが、ワタクシ緑がちるが今年よく聴いたアーティスト15選Apple Music”Replay”機能調べ)、15位から順に紹介していきます。

 

まず、12位から15位がこちら。

15位:TOKYOPILL

今年久しぶりに不朽の名作「serial experiments lain」を見返して。25周年を機に、主人公の岩倉玲音と対話できるAIサービスができたり、主題歌”Duvet”(タイトなジーンズに戦うボディをねじ込まないほうのBoaの曲)も今年再リリースされたりと、今密かにリバイバルブームが熱いコンテンツなのですが、それ関連の調べものをしているときにたまたま見つけた、このアニメのフォロワーであろうブレイクコアのアーティストです。このアーティストに関する詳しい情報は何もわからなかったんだけど、どうやらこの記事によると

日本のアニメやゲームなどのサブカルチャーをアートワークや楽曲のサンプル素材として使ったブレイクコアの作品は増えており、切り離せない関係にまでなっているように見える

らしいし、そうした潮流から生まれた才能なのかもね。凄く好きな世界観。

ブレイクコアとアニメの関係性|UmeGatani

14位:Zeal & Ardor

奇才Manuel Gagneuxが生みだした「ゴスペル×ブラックメタル」の融合体。耳が遅くて申し訳ないが、2022年に発表した3rdアルバムが各方面から絶賛されており、俺も今年の最初のほうにドハマりしてた。かつて「ブラックゲイズ」を構築したNeige(Alcest)のように、このアルバムを以って新たなジャンルを定義づけた男になったんじゃないですかね?それだけのエネルギーとセンスを感じる。来日しないかなあ。

13位:NewJeans

はい、俺も立派な”にゅじおじ”です。

真面目な話、仕事が忙しくなればなるほど、急に女性アイドルを聴きだす傾向が俺にはある(かつての欅坂とかBiSHとか)。心が荒むとよりインスタントな娯楽(決してネガティブなニュアンスではない)を無意識に求めてしまうのかもしれない。今年は日本のじゃなくて韓国のアイドルをよく聴いており、NewJeans・(G)I-DLE(アイドゥル)・Billlieの強力3トップが常に俺の通勤中プレイリストの中にいた。でも顔と名前が一致するメンバー、ハニさんとウギさんとツキさんくらいなんだけどね…若い人間の顔を覚えられないの、マジでおじ化の始まりだよな…。

 

 

12位:スピッツ

中学の頃からずっと好きなアーティストだけど、今年そんな聴いたっけな?水戸から歩いている時に「三日月ロック」とか「さざなみCD」をBGMにしていたのは覚えているので、それが影響したのかもしれない。デビューしてから30年以上経って、今なおアニメ主題歌やってスマッシュヒット飛ばしてるの、やっぱり化け物バンドだよな。


次に、8位から11位がこちら。

 

11位:Slipknot

説明不要、メタル界の大御所。どれだけメンバーが脱退しようが亡くなろうが、意欲的にワールドツアーを回り、継続的に新譜をリリースする姿勢が素晴らしい。まあメンバー間の仲は凄まじく悪そうだけど…

彼らが主催するフェス”Knotfest”。日本でも2020年3月に開催を予定していたものの、コロナ禍で開催が延期されていましたが、今年の4月に約束通り再上陸を果たしてくれた。1日目のチケットなんて、延期前と同じ価格の9,500円/日。超円安のこのご時世において、海外バンドのフェスとしては破格すぎるぜ。呼んでくれた数々のバンドたちの好演に酔いしれたのはもちろん、彼ら自身もプロフェッショナルなパフォーマンスを見せてくれて、大満足な2日間となりました。またすぐ来てほしいね!!

10位:Sleep Token

そのSlipknotのフロントマンであるCorey Taylorも、若手メタルバンドの注目株として名前を挙げるのがこのバンド。

スリップノットのコリィ・テイラーが絶賛する現代のバンドは?次世代を代表するバンドを3組挙げる|Bezzy[ベジー]|アーティストをもっと好きになるエンタメメディア

大先輩Slipknotよろしくマスクで顔を隠した彼らだが、徹底した美意識がもたらす洗練された音像は、若手バンドのそれではない。俺は読書をする時に、必ずその本に合う音楽を探して聴く人間なんだけど、彼らの曲と重厚なミステリーや壮大なSFが醸し出すマリアージュは最高ですよ(三体を読みながらよくこの曲を聴いてた)。

 

9位:CRYAMY

PK Shampooもだけど、こういうひねくれてて荒々しくて青臭くてかつ美しい音楽って、ちょっと酒を飲みすぎた帰り道に、かすんだ夜空の中に星でも探しながら、少しだけ自分に酔った状態で聴くのが最高なんですよね。前から好きなバンドだけど、今年の3月にサブスク解禁したので、しばらくかけまくってた。


8位:Trivium

かつて”Avenged Sevenfold””Bullet For My Valentine”とならび、"新世代メタル御三家"とか称された彼ら。言ってたの誰だ。BURRNか??もちろんBURRNキッズだった僕は思春期の頃からよく聴いてた。

3月のKNOTFESTで久しぶりの来日。ボーカルのキイチは日米ハーフだし、来日頻度は比較的高かったバンドだけど、何気に生で観るのは今回が初だったんだよな。経験に裏打ちされた安定感ある演奏は圧巻だったし、セットリスト間違えて「バカキイチバカキイチ」ってセルフツッコミするおちゃめな姿も見れてよかった。ってか、メタルコアの黎明期から活動しているベテランバンドなイメージだけど、キイチは10代でデビューしてるからまだ30代後半なんだよな。これからも精力的にメタルシーンを牽引していってほしいものです。


そして、4位から7位がこちら。

 

7位:JIGDRESS

さっきも音楽と小説とのマリアージュについて語ったが、彼らの音楽は繊細な恋愛小説に似合っていると思う。俺は恋愛モノより血生臭い小説のほうが正直好みなのだが、とはいえ島本理生みたいなちょっと不安定な人間たちの群像劇はついつい手に取ってしまいがちであり、今年も「夏の裁断」あたりを読みながら、彼らの音楽を聴いていた。

 

6位:The Devil Wears Prada

自分で言うのもなんだが、なんでこの順位なんだ?(笑)

00年代のメタルコア/ポストハードコアバンドの代表格。当時は彼らみたいなナヨいクリーンボーカルが挟まるメタルコアは、純度の高いメタラーから「どうしようもなくダサい」扱いされていたが、俺は正直大好きだった。今回BMTHフェスの予習のためにいろいろ音楽を漁っていたら、たまたま彼らの最新アルバム「Color Decay」を見つけ、ノスタルジーにかられて聴いてみたのだが、これが意外と骨太なメタルコアバンドになっていてこれはこれで好みだったのだ。うーん、でもやっぱりそんなたくさん聴いた記憶はないけどな…


5位:In Flames

こっちは間違いなく何度も何度も聴いた。今年リリースされた最新作「Foregone」は、ニューメタル路線自体は継続しながらも、かつてのメロデス的なエッセンスをこれでもかと乗っけてみた(メロデス回帰!みたいな書かれ方もよく見たけど、個人的にはそこまでには思わなかったなあ)、新旧ファンどちらにも刺さる良作だったと思う。KNOTFESTでのライブもよかったです。”Take This Life”で調子乗ってモッシュピットに飛び出していったら、米軍関係者と思しき外国人客に吹っ飛ばされた。フィジカル鍛えようと思う。

 

4位:Bring Me The Horizon

言いたいことはひとつだけ。また来年すぐにでもNEX FESTやってください。お願いします。

高校生の時に新木場でライブを見てからずっと、永遠のアイドル的存在の彼らが、こうしてメタルの垣根を飛び越えたビッグネームになって、メタルもロックもJ-POPもごちゃ混ぜにしたイベントのオーガナイザーとして日本に戻ってきてくれて、「ファンやっててよかったぜ」って勝手に誇らしくなってたりしてた。ヴェルディの昇格の時も思ったけど、長く何かを追いかけ続けるって、それだけで価値が生まれるものなのかもしれないね。ちなみにジョーダン脱退らしいけど、大丈夫そ?

 

最後に、TOP3はこちら!!

 

3位:Parkway Drive

6位のTDWPのようなメタルコアは認めなかろうと、彼らを貶めるヤツは誰もいない。俺らアラサー世代のメタラー・ハーコー野郎からの支持率100%を誇ったといっても過言ではない彼らが、KNOTFESTで待望の来日を果たしてくれた。とはいえ、欧米では大型ロックフェスの大トリを飾る格なのに対して、日本での一般的な知名度はいまいち。「ライブ盛り上がるのかなあ…」とか思ってましたが、杞憂に終わりました。最前列でもみくちゃにされながら叫んだ”Prey”、最高だったなあ。たぶん人生で1番か2番目によかった轟音体験だった。もう日本じゃ見られないんだろうなあ。また見たいなあ。


2位:Lillies and Remains

こちらもBMTHと同じく、俺にとって永遠の憧れ。9年ぶりのフルアルバム「Superior」が今年7/12にリリースされました。9年て。待ちぼうけ食らわせるのはヴェルディYOSHIKIくらいにしてくれ。相変わらず新曲はどれも期待を裏切らないクールさでしたが、とりわけ2曲目の”Muted”は、天皇杯東京ダービーに臨む道中で聴きまくっていたので、印象に残っています。苦い思い出と結びついてしまった曲だけど、来年は歓喜のアンセムに変わりますよう。

 

1位:PK Shampoo

2年連続1位だった。聴きすぎ。ここ2年間で新曲7個しか出てないのに、一向に飽きない。俺の書く文章がどんどんクサくなっていったのも、彼らのせいじゃないかな。

フロントマンであるヤマトパンクスのキャラのせいで、色眼鏡で見られることもあるけど、はかなく消えてしまいそうな繊細さと、泥啜って生きてそうな荒々しさが、ギリギリのところで両立している感じがたまらなく好き。青臭いけど恥ずかしくない歌詞も含め、とても真摯な音楽を奏でていると思う。彼らの主催フェスに行けなかったことと、ベイスターズが優勝を逃したことが、2023年の心残りかもしれない。

 

さて、ここに書いたのはほんの一部ですが。2023年を彩ってくれたたくさんの音楽に、改めて感謝を。

そして、何より、1年間体調を崩すこともなく、平穏な年越しを迎えることができた妻に、深い感謝と拍手を送りたいと思う。運動が大キライだった彼女は、今年何があったか(もちろん想像はつくが)一念発起してジムに通い始め、半年で-20kgの減量に成功した。俺なんかよりよっぽどブログを書くべき人間なんじゃないかと思うのだが、本人にはその気がないのがもったいない。(そしてもともといったい何kgだったんだという疑問は、決して本人にぶつけられないしぶつけてはならない彼女曰く「ダイエットにはオフシーズンなんてない」とのことなので、J1での厳しい戦いが待ち受けるであろうヴェルディとともに、彼女の闘いもしっかりサポートしなければならない。来年も楽しい年になりそうだ。

 

それでは、1年間お読み頂きありがとうございました。皆様もよいお年をお迎えください。

更新頻度の著しく低いブログですが、変わらずお付き合い頂けると嬉しいです。

 

では。また来年!

5474日と、14日。(東京ヴェルディJ1復帰に寄せて)

「今はこんなに落ちぶれちゃったけどさ、でも、いつかヴェルディが再び輝かしい大舞台に立つ日には、満員のスタジアムにはたぶんこういう曲が大音量で流れてて」

 

あれは2014年の秋だったと思う。

対戦相手はどこかも忘れてしまったが、冷たい風が吹きすさぶ中、不振に喘ぐヴェルディのとてつもなく退屈な試合をガラガラの味スタで見届けたあと、帰り道YouTubeで見つけた曲を聴きながら、朧気にそんな夢を見た大学時代を、ふと思い出す。

 

その曲は、00年代のパンクやエモを愛した人間なら誰もが一度は通ったであろう、

偉大なバンドFall Out Boyの“Centuries”だった。

有線イヤホンを通して、これぞスタジアムロックというスケール感に満ちたサウンドに浸りながら、俺はまた妄想に耽る。

「そして、緑の服着た大勢のサポーターが、喉を枯らしてピッチに声援送っててさ…
俺らのチャントって、満員のゴール裏で歌ったら、めちゃくちゃ格好いいはずなんだよな」

 

俺が愛する東京ヴェルディというクラブは、かつて「名門」と謳われて、でも俺が応援し始めた2000年代前半には、もう落ちぶれ始めていて、そして、自分のお金でたくさんスタジアムに通えるようになった頃には、ホーム味の素スタジアムの膨大なキャパを持て余し続ける、不人気クラブになっていた。それでも、このクラブを好きだという思いは変わらなかったから、試合はずっと見続けていたけど。

だから、満員に膨れ上がるスタジアムでのヴェルディの試合なんて、当時の俺にとっては本当に妄想の世界、夢物語だった。

 

・・・

 

そんな妄想にあまりにもそっくりな景色が、あれから丸9年経った俺を迎えていた。

2023年12月2日。場所は東京都新宿区、新国立競技場

まだキックオフの2時間前なのにもかかわらず、最寄りのJR千駄ヶ谷駅から、途切れることなくスタジアムに吸い込まれていくたくさんの人々。

王国の誇りを胸にオレンジを身に纏うサポーターや、中立と思しきサッカーファンの人間もたくさんいたが、それ以上に多かったのが、緑色の服を着た老若男女の数々。その光景を見ただけで、嬉しくてなんだか叫びたくなる。彼ら一人一人と「来てくれてありがとうね」「今日は絶対勝ちましょうね」とハイタッチしたい気持ちを抑えながら、俺たち夫婦二人も入場ゲートへ向かう。

途切れることがない人波。最終的に入場者数は53,264名に膨れ上がった

運命の日、スターティングメンバーに選ばれたのは、彼ら11人。
左から、GKマテウス、DF宮原、林、谷口、深澤、
MF中原、森田、稲見、齋藤、FW染野、山田。

2023年J1昇格プレーオフ決勝、東京ヴェルディvs清水エスパルス

激闘の末に彼らを、そして俺たちを待つのは、天国、もしくは地獄。

一歩場内に足を踏み入れれば、「俺達はヴェルディ」「15年分の悔しさをぶつけろ」の横断幕。シンプルながら切実な思いが詰まったメッセージに、気持ちがますます昂る。

決起集会が始まる直前、予備の飲み物を買い忘れたことに気づいた俺は「ちょっと待ってて、外の自販機で買ってくるから」と妻に告げ、ダッシュでスタジアムを出た(再入場可能な新国立って、こういう時ありがたいよな)。

こんな空間であの曲だけでもどうしても聴きたくて、人波を縫うように走りながら、ワイヤレスイヤホンをつけた。

Some legends are told
伝説は語り継がれるけどさ
Some turn to dust or to gold
消えてしまうヤツと輝き続けるモノがある
But you will remember me
でもお前は俺を忘れないだろうな
Remember me for centuries
何世紀経っても忘れないはずさ
And just one mistake
たった少しの過ちが
Is all it will take
命取りになるのさ
We'll go down in history
俺達は歴史に名を刻むんだ
Remember me for centuries 
何世紀にもわたってな
Remember me for centuries 
何世紀にもわたって刻むのさ

 

この舞台にふさわしい歌詞に武者震いしながら、両方のポケットに自販機で買った緑茶のペットボトルを突っ込み、またダッシュでスタジアムに戻った。運命のキックオフまで、あとおよそ1時間。

そして、俺がロックンロールから得た高揚感は、決起集会でさらに加速する。

今までのヴェルディゴール裏では経験したことのなかった、興奮と緊張が渦巻く異様な空気。誰が煽るでもなく自然と巻き起こる拍手。そして、突如耳をつんざく太鼓の音と、それに合わせ歌い飛び跳ねる緑の群衆。5474日の思いを乗せた叫びが、新国立の狭いコンコースにこだまする

その様子を眺めながら、コールリーダーが頷いて、そしてこう語る。

この15年間、一度クラブはなくなりそうになりました
そこから俺ら、ここまで這い上がって、ここまで這い上がって、
15年間、J2で、苦しい思いして、悲しい思いして、辛い思いして、
俺らここまで這い上がってきたっていうこの“気持ち”が、
今日一番のアドバンテージです

やめてくれよ。試合前にもかかわらず、そんなに泣かせないでくれよ。

この惨めな15年間で、すっかり斜に構えて悲観的になるのが当たり前とさえ思っていた、そんな俺の卑屈な感情を、「アドバンテージ」なんていう、とんでもなく熱い言葉でひっくり返さないでくれよ。最高じゃねえか。

・・・俺の脳裏に、またあの曲の一節がよぎる。

Mummified my teenage dreams
10代の頃の夢なんて干からびちまった
No, it's nothing wrong with me
でも俺は間違っちゃいなかったんだよ
・・・

 

熱い決起集会を終えて、俺は「肩組ませてもらってありがとうございました」と、隣にいたパパとその小さな娘さんにお礼を言って、ついでに小さくグータッチをして、そのあと少し涙で滲んだ眼を、ごしごしとタオルマフラーで拭った。「まだ泣くのには早いよ」と、隣の妻に茶化されそうだったから。

(タオルマフラーにまつわるお話はこちら)

 

そこからキックオフまでの約1時間、正直記憶は薄い。写真もほとんど撮ってない。

透き通る青空の下、燃えるように映えるグリーンとオレンジの大観衆。その華やかな場に当事者としていられる幸せをかみしめる余裕は、正直なかった。

こういう舞台を傍観者として見るのが一番楽しいのかもしれないなあ」なんて、そんな後ろ向きな感情が、また頭をもたげてきたりしていた。

認めなくちゃいけない。せっかくあれだけ決起集会でテンションを上げたのに、そんな弱気な感情がまた顔を覗かせるくらい、マジでエスパルスのゴール裏の声量は脅威だった。王国の名は伊達ではなかった。

だけど、12月とは思えない暖かな日差しにきらきらと照らされながら、いつもの場内BGMとともにウォームアップに出てきたヴェルディの選手たちを見て、さっき入場時に見た弾幕の言葉が蘇る。

そうだ、俺たちはヴェルディ。そしてここは東京だ。誰になんと言われようと、ここは俺たちのホームで、今日は、俺たちが、主役だ。

 

だから、ただ、ひたすら跳ねて、大声で歌った。主人公に相応しい雰囲気を作るために、そして感動のフィナーレを迎えるために。

 

前半の45分は、淡々と過ぎていった。あっという間だった。そんな気がした。

ありったけの想いを込めて、声を枯らすスタンドの雰囲気とは対照的に、ピッチ上の時間はぬるっと過ぎていったように感じた。

ハーフタイム、既にボロボロの喉を緑茶で潤しながら、「このまま何となくあと45分が過ぎて、気づいたら昇格の瞬間を迎えてたりしてないかなあ」なんて、ちょっと楽観的な気分になったりしていた。

 

だが、そんな甘い期待は、やはり裏切られることになる。

 

後半15分。ペナルティエリアの奥に出された浮き球のパスに、森田と中山が反応する。ゴール裏144ブロックに陣取る俺たちの目に、森田のハンドははっきり見えていた。一拍遅れて、笛が鳴る。

昨年のJ1トップスコアラー、チアゴサンタナが落ち着いてPKを沈め、静かにセレブレーションをする。懸命にマテウスのチャントを叫んだ緑のゴール裏が一瞬静まり返り、反対側でエスパルスサポーターの歓喜が爆発する

そんな中、もともと色白の森田の顔がさらに青ざめる様が、だだっ広い新国立のトラック越しにも分かった。

東京ヴェルディ0‐1清水エスパルス

決して得点力に優れたチームとはいえないヴェルディにとって、このビハインドはあまりにも重い

 

城福監督が矢継ぎ早に交代のカードを切る。でも、局面はそうガラッとは変わらない。

エスパルスベンチも対抗して動く。途中出場なのが不思議なくらいの豪華なタレントが投入される。

 

そして、時間が過ぎていく。

国立競技場の大きな屋根に遮られて、一度は顔を隠した西陽が、3階席と屋根の隙間から再びスタンドに降り注いだ。

それはオレンジに染まった勝利の瞬間が訪れることを告げているようにも思えたし、落胆の瞬間を迎えようとする俺たちを憐れむ、一筋の涙のようにも見えた。

 

ヴェルディにも決定機はいくつかあった。でも、宮原のミドルシュートはGK大久保がキャッチし、染野の振り向きざまのボレーも、DF高橋が体を張った決死の守備で凌ぐ。

電光掲示板から、試合時間を示す表示が消える。90分が経過し、残すはアディショナルタイムのみ。1点取れさえすれば、追いつけさえすれば、悲願のJ1に手が届くのに。残された時間は、あまりにも短い。

91分、コーナーキックのこぼれ球に反応した森田が、右足を振り抜く。ボールは無情にもゴール左に逸れていく。この時察した、ああ今日はそういう日だったんだ。サッカーの神様は、これでもまだ、俺たちを認めてくれないんだ、と。何もかもを受け入れる準備はできていた。その行為は、この5474日で、慣れていた

 

物語の残りページが少なくなるほどに、清水エスパルスのゴール裏が一層盛り上がりを増す。彼らはフラッグをこれでもかとはためかせ、勝利の凱歌を歌っていた(ように俺には思えた)。絶望の淵に立ち、でもその時、俺は少しだけニヤッとできた。それは盛大なフラグになるぜ。今年のヴェルディは、こう見えても諦めが悪いんだ・・・

 

そして、あの笛を聞いた。


信じていた。でもやっぱり、信じられなかった。ペナルティスポットを指差す主審の姿は、既に涙でぼやけて見えた。

 

・・・

 

東京ヴェルディ1-1清水エスパルス

 

試合終了のホイッスルを聞いた瞬間。

妻に抱きついてボロ泣きしながら、「よかった、よかった」って、俺はそれしか言えなかった。

喜びに浸るわけでもなく、これまでの思い出が走馬灯のように駆け巡ることもなく、ただただ、今目の前にいる彼ら緑の戦士たちが、そして一緒に声を枯らして歌った俺たちが、今日の皆の想いが報われたことに心から安堵して、ひたすら涙を流していた。

 

「なにか一つ重い重いバトンを受け渡したような」

「追いかけられ続けた恐怖からやっと解き放たれたような」

「生き別れの肉親と、長い時を経て再会したような」

14日経った今でも、その時の感情をうまく形容するのが難しい。

 

でも、間違いなく言えるのは、それは単なる喜びではなかった。少なくとも、普通に生きてきて得られる類の、ありきたりな感情ではなかった。だからこそ、自分の中のありとあらゆる壁が決壊して、涙が止まらなかった。

 

 

試合終了後に鳴り響いたVictoryには、格別の意味があった。皆で泣きながら歌った「俺のヴェルディ」には、タオマフやフラッグを掲げながら歌った「Go West」には、格別の意味があった。だって、何千日何万日経とうと、俺たちはスタジアムに集い、同じ歌を歌い、そしてそれに共鳴する。特異で、奇妙で、美しい世界だ、そうは思わないか。その感動こそが、フットボールクラブが存在する意義なんじゃないか。

クラブへの思い入れは、人それぞれ差があるとは思うけど、あのときスタジアムにいた人間、そして映像を見ていた人間が流した涙は、等しく美しかったと思う。

義成、お前は痩せろ

(清水に先制を許した瞬間、「絶望」という2文字が書かれていたかのような森田の後ろ姿に、失意のままチームを去ったかつての祐希が重なって見えてしまったのは、ここだけの秘密だ)

(ちなみに、俺の推しのヴェルディヴィーナス、この人・・・)

これ笑った。全力さんらしいエピソード

 

そういや、今年のシーズン頭、はるか昔の話のように思えてしまうけど、「大旗で試合が見えない問題」で、ちょっとだけサポ界隈がざわついた。俺はコアサポ層の動向を詳しくは知らない人間だけど、ちょうど中心部の世代交代があったタイミングだから、本来なら大した問題じゃなかったはずなのに、ちょっと過敏な反応が出た面はあると思う。かくいう俺も、何やら偉そうに物申したことを覚えている。あの時若手サポからのヤンチャ感溢れる発信に、FOBを聴いていた9年前の俺なら共鳴しただろうけど、くたびれたアラサーになった俺は少し否定的だった。

結果的に、彼らの努力のおかげで、夢に見ていた「満員のスタジアム、熱くてかっこいいゴール裏」が現実のものとなった。本当にごめんなさい。そして、感謝しています。毎試合、最高の雰囲気作りを、ありがとうございました。あなたたちは間違いなく今シーズンのMVPです。

 

そして、それまでのゴール裏を繋いできた方々にも、心からの感謝を。「自己犠牲の精神」なんて安易なワードじゃ形容できないくらいの、血の滲むようなサポートがあったことを、俺は全ては知らないとはいえ、よく分かっているつもりです。

昇格の煽りPVで、Funny Bunnyの「君の夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ」って歌詞に、チャントの歌詞カードを配るヴェルディサポの姿がオーバーラップされていて、俺はそこだけでウルっと来たもんな。

 

 

そして、このクラブを支え続けてきた、全てのヴェルディサポーター。

苦しかったよね。辛かったよね。でも、なんだかんだ楽しいこともたくさんあったから、ヴェルディが人生に彩りをもたらしてくれたから、サポーターであり続けたんだと思います。少なくとも、俺はそうです。後悔なんて、別にないよ

さっきエスパルスサポーターの迫力に触れたけど、あの日の俺たちの声援だって、たまらなくかっこよかった。「一緒に闘っている」は口先だけじゃなかったと思う。だから、最後の最後、ドラマが待っていた。いや、呼び込むことができた。

彼らも、俺たちもまた、何世紀にもわたって名前を残すだろうぜ。そうだろ?

We've been here forever
俺達は永遠にここから離れない 
And here's the frozen proof
生きてきた証を残すためにさ
I could scream forever
俺の叫びが止むことはないんだ
We are the poisoned youth
”俺たちは毒されたガキ”だってな

We'll go down in history
俺達は歴史に名を刻むんだ
Remember me for centuries
何世紀にもわたってな

敬愛するiva.氏の和訳ver. で聴いてほしい、Fall Out Boyの”Centuries”。文中で引用したフレーズも、彼の和訳を基にしています

 

・・・

 

長々とスミマセン。もう少しだけ続きます。

 

試合後、アウェイ水戸戦やホーム最終戦を共にした大学の同窓生と、新宿近くで少しだけ飲んだ。「少しだけ」だったのは、妻が先に家に帰って待っていたからである。

(後に、我が母親から「勝利の女神の●●ちゃん(妻)を一人で帰らせて、飲みに行くなんていったいどういう了見なのよ!親の顔が見てみたいわ!!」と怒られた。鏡をよく見ておいてくれ。あと妻には確かに本当に申し訳ない)

お互いサポーター歴20年、あれやこれやの思い出を全て語るには、2時間弱という時間は短かったかもしれないが、今日起きたことを振り返り、喜びに浸るには十分な時間だったと思う。なにより、たまらなくビールが美味しく思えた。また来年以降も、よろしくお願いします。

帰りがけ、JR新宿駅の改札のちょっと手前で「ヴェルディ昇格」の号外をもらえた。やけにスリムになったヴェルディ君もうろうろしてたから、グータッチもしてきた。知らずに通りかかってたまたまもらえたけど、あとで公式の発信を見たら、号外はこの場所でしか配っていなかったんだね。長年サポーターを続けてきた我々にもたらされた、ちょっとしたご褒美だったかもしれない。

 

家に帰って、もう一回妻の顔を見てまたおいおいと泣き(彼女は流石にちょっと引き始めていた)、そして一夜明けても興奮はまったく収まらなくて、友人P氏(以前徒歩遠征にお供してくれた)と行った翌日日曜のハマスタレジェンドマッチも、ふわふわした気持ちで観戦していた。

ほんとはその後すぐにでもブログを書きたかったんだけど、とめどなく溢れる思いをまとめる暇がなかった。翌々日の月曜からインドネシアに出張していたのである。

2018年、悪夢のジュビロ磐田戦当日、俺はやはりインドネシアにいた。負けたこと以上に、その場に立ち会えなかった悔しさに歯噛みしたのを覚えている。だから、今回ギリギリ出張の日程がPO決勝に被らなかったのも、号外と同じく、サッカーの神様からのご褒美だったのかも、と勝手に思っている。

インドネシアはサッカー熱の凄まじい国だが、その中でもサッカーに詳しいローカルスタッフの方がいるので、俺は彼に興奮しながらヴェルディ昇格の報をまくしたてた。彼はアルハン繋がりで既にヴェルディの昇格を知っていて、一緒に喜んでくれた。

「オールザベストヴェルディ」「ビーザナンバーワンアゲイン」「トーキョーイズグリーン」などと景気の良いお祝いの言葉に混じって「アルハーンノーイナッフゲーム」「ベストプレイヤーナガトーモ」など、ところどころ不穏なワードも聞こえてきた気がしたが、まあいいや。アルハン、ほんとに韓国行っちゃうのかね。

 

あの日から14日が経った。辛いニュースにも触れておかなければいけない。

 

奈良輪雄太がスパイクを脱いだ

結果として、東京ヴェルディが彼にとって一番長く在籍したクラブになった。

城福監督が口を酸っぱくして言い続けた「靴半歩分の寄せ」を体現するような、最後まで一切手を抜かない選手だった。ありがとう、奈良輪さん。

16年ぶりJ1昇格の東京Vで現役引退の奈良輪雄太、「本当に幸せなサッカー人生だった…」 - 超ワールドサッカー!

 

そして、2人の偉大な功労者が、チームを去ることになった

選手はチームを選べるが、サポはチームを選べない」という慣用句が、こんな残酷な形で否定されようとは思わなかったし、二人が語るヴェルディへの深い深い想いを聞くと、俺たちが誇りに思うヴェルディというクラブの価値が、これほど悲しい形で肯定されたこともないよな、とやるせなく思ってしまう。

彼らとの別れについては、改めて記事を書きたいな、って思ってる。書きたいことが多すぎる。

 

でも、J1に行くのなら、城福監督の言う「決してエレベータークラブになってはいけない」という言葉を実現したいのであれば、どうしても痛みを伴った変革は必要になる。

あれだけ恐ろしく見えた清水エスパルスみたいな相手が、毎週毎週目の前に立ちはだかるのだ。

我々は今年3位にこそつけたが、J2上位陣に対する戦績は決して芳しくなかった。来年も苦しい戦いになることは容易に想像がつく。

あの日あの瞬間、間違いなく俺たちは世界一幸せな人間だったし、その幸せを与えてくれたフットボールという存在に感謝しながら、次はとにかくJ1に齧りつかなくちゃいけない。2週間前の歓喜はそろそろ綺麗な思い出としてしまっておいて、そろそろ来年に向けて気持ちを切り替えて、新しい嬉し涙を流す準備をしなければいけない。

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・・・そんなことを考えながら、でも他の方々が綴った文章の数々を見て(ここに貼ったのはほんの一部です)やっぱりあの日のことはしっかり形にしておきたかったから、クソほど仕事は忙しいけど、合間を縫って自分も記事を書いていました。とても遅くなってしまったけど、完成させられてよかった。

 

2023年。水戸からの徒歩遠征も楽しかったし、いわき遠征も楽しかったし(これもブログに書いときゃ良かった)、東京ダービーもまあ思い出にはなったし、一生忘れられない年になるだろうな。楽しかったな。

ほんとに、ヴェルディをずっと好きでいて、よかったな。

って胸を張って言えるのが、とにかくたまらなく幸せです。

 

これでもまだまだ書き足りないことだらけだけど、10000文字をゆうに超えてしまったので、そろそろこれくらいで締めさせていただきます。

 

とにかく。改めて、5474日(+14日)分の気持ちを、叫ばせてください。

 

やったぜ!!!!!!!!!!!!!!!!

土曜日もきっとボロボロだろうよ(或いは俺のタオルマフラーのお話)

雑巾みたいだね、とまでは彼女は言わなかった。

 

それでも、それを手にとって、ほつれまくった糸を少しだけ整えて、「ほんと年季入ってるよね」と半ば呆れたように笑いながら、

妻は、色褪せた緑とグレーのタオルマフラーを、緊張で青ざめていた俺に渡してくれた。

2023年11月26日のAM8時、決戦当日の朝。

首にかけたそのタオルマフラーは、ちっぽけな、不格好な、でも決して譲ることのできない、俺のプライドの象徴だ。

 

・・・

 

そのタオルマフラーがまだ新しく、鮮やかな発色をしていた2003年

俺が好きになったサッカークラブ、東京ヴェルディ1969は、果たしてどんなだったろうか。

少なくとも、今よりはまだ、華があった、と思う。

J黎明期の輝きこそ失えど、なお日テレという大きな後ろ盾を有し、トップディビジョンを舞台に戦うチーム。

エジムンドは生で観られなかったけど、エムボマやラモンやウベダといったワールドクラスのタレントがそこにはいた。

サッカー小僧なら誰しも買ったであろうJリーグチップスからもヴェルディの選手が出てきたし、試合観戦後にはなぜか選手の集合写真が家に送られてきた(そういやあれは何のサービスだったんだ?)。

 

10歳の俺はすっかりそのチームの虜になった

 

味スタに行きたくて行きたくて、ご褒美として祖父と祖母に買ってもらえるチケットをモチベーションに、勉強なり習い事なりを頑張っていた。

スタジアムでは、祖父に買ってもらった宝物のタオルマフラーを振り回し、試合を見終わったあとには、興奮冷めやらぬいとこと一緒に、祖父の家でゴムボールを使ってPK戦をやっていた(結果として、祖父の家のふすまには次々と穴ができていった)。

2005年元旦、愛するチームが天皇杯を制した瞬間は、家族親戚みんなで喜びを分かち合った。

とてもキラキラした、ガキの頃の思い出だ。

 

・・・

 

そして、月日は流れた。

 

「名門」は、地に落ちた。

 

別に多くを語る必要はないと思うし、語りたくもない。

大いなる歓喜で始まった2005年は、J2降格という悪夢のような結末で幕を閉じた。

一度はJ1に復帰するも、2008年に再度J2降格

極めつけは、2010年のクラブ消滅危機

辛くも最悪の事態だけは免れたものの、代償として次々とJ1に引き抜かれていく選手たち

そして、いつ行ってもがらんどうのスタジアム


それくらい書けば、もう十分だろう。

 

15年。時間が経ちすぎた。

 

小4のときに骨折して、それでもスタジアムに行きたいとねだった俺を、おぶってスタジアムに連れて行ってくれた体力自慢の祖父は、とうにこの世を去った。

近くの酒屋さんにいつも稲城市民シートを買いに行ってくれた祖母は、もう孫の名前を思い出すのがやっとだ。たぶんヴェルディのことなんて殆ど覚えてない。

 

本当に、時間が経ちすぎた。

 

俺は10代20代を飛び越え、今年ついに三十路を迎えてしまった。もういいおっさんである。

ヴェルディを愛する気持ちを絶やすことは決してなかったと思っているが、それにしたって、負けることにも、裏切られることにも、惨めな思いをすることにも、すっかり慣れてしまった。

いや、慣れたというよりは、ヴェルディを応援するあまりかえって傷つくことを恐れて、純粋さだったりひたむきさだったりそういうウブなものを、心の奥底にしまうことを選択し続けただけかもしれない。

 

長きにわたるJ2暮らしで、俺はすっかり変わってしまった。

変わらないのは、スタジアムに行くときは必ず、このタオルマフラーを持っていくことだけ

20年にわたって、俺の汗と涙と鼻水を拭ってくれたこの相棒は、繰り返すが俺のちっぽけなプライドの象徴だ。

 

2023年11月26日、PM5時過ぎ。

千葉との死闘を制し、歓喜に沸くスタジアム。今のチームの戦いぶりが、ちょっと俺のタオマフに重なって見えた

問われるのは、華やかさよりも、闘えるかどうか相手にどれだけ食らいつけるかどうか不恰好だろうと勝ちを掴めるかどうか

ピッチ上で見せる強度の高いサッカーは、そこにいる選手のみならず、ベンチ外のメンバーも含めた日々のトレーニングの厳しさあってこそだということを、我々に想像させる。そんな2023年城福ヴェルディ

でも、そんな泥臭い戦いぶりの中で、森田や齋藤が魅せるテクニック、中原の悪魔的な左足のパワー、そして谷口の大胆な持ち上がり。かつての名門としてのプライドも、端々に覗かせてくる。

そう、俺がかつて虜になったヴェルディの華やかさには欠けるかもしれないけど、ちょっと不格好ななりになったかもしれないけど、でも確かにプライドは捨てずにいて、めちゃくちゃ尊いじゃんって。重なって見えたんです、俺の色褪せたタオマフに。

 

たぶん、土曜日もボロボロになっているだろうな。

試合終了の笛が鳴るその瞬間、ピッチ上の選手たちも、俺たちサポーターも。

だって、このチームは、今までもそうやって泥臭く勝ちを積み上げて、ここまで来たのだから。

知ってるよ。勝負事に絶対はねえよ。

相手の清水エスパルスだって必死だよ。めちゃくちゃ強い相手だよ。

怖いよ。また裏切られるのが怖いよ。また更に時を重ねないといけなくなるかもしれないのが、ほんとにほんとに怖いよ。

それでも、俺たちの守護神マテウスが「楽しむことが大事」なんて言うからさ、

俺も20年前を思い出して、純粋さとかひたむきさとかそういったものを心の奥底から引っ張り出してさ、全力で応援しようと思うよ

 

こんな自分語りの文章もさ、ほんとはJ1昇格をバッチリ決めて、勝利の美酒とともにアップするほうが美しいのは分かってるんだけど、

でも俺らのヴェルディライフは、そんなに綺麗なものじゃないと知っているし、

そして、そんな俺の、俺たちの生き様を、一人でも多くの人間に見届けてもらうために、俺の駄文が少しでもどこかの誰かに響けばいいと思ったから、

こうして今せっせと書いています。

 

12月2日。今週土曜日です。

J2の3位東京ヴェルディvs4位の清水エスパルス

14時キックオフ。場所は新国立競技場

チケットは今日のお昼12時、一般発売開始です。

www.verdy.co.jp

 

東京ヴェルディは、引き分け以上で念願のJ1に返り咲くことができます。

俺みたいな人間たちが渇望し続けたその舞台が、今、目の前にあります。

 

みんな、観に来ませんか。

ボロボロになってもなお、それを愛していることを誇りに思い、一緒に絶望を味わい、一緒に笑い、涙を流してきた人間たちの、一世一代の晴れ舞台だよ。

決して綺麗でも華やかでもないかもしれないけど、そしてそこに理屈も理由もないかもしれないけど、きっと、心を揺さぶる説得力だけはあると思うんだ

物味遊山でも全然いいけど、もし響くものがあったら、手拍子だったり声を出したりして、ホーム東京ヴェルディの背中を少しでも押してくれたら、とても嬉しいなって思います。

 

とにかく。
来る決戦の日。このタオマフが拭き取るのは、特大の嬉し涙であることを信じつつ。

ではまた。国立で会いましょう。


あれでもいざ写真に撮ってみたらそんなにズタボロでもないなこのタオマフ
どうしたもんかな俺のこのクサ文章