旅路は終わってしまった。
彼の功績には、感謝してもしきれない。
あの日、歓喜に浸る間もなく、血走った目で「決してエレベータークラブになってはいけない」「優勝を目指してやらなきゃいけない」と彼が叫んだ言葉に対して、心のどこかで(それは無理だろ)と薄ら笑いをしていた自分を、殴りたい。理性的であろうとすること、現実主義であろうとすることを、冷笑の口実にしていた自分を、殴りたい。
あの日から3年近くが経ち、東京ヴェルディはまだJ1にいる。
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彼について語りたいことはいくらでもあるが、今回はこの解任劇にフォーカスして、思ったことを記しておきたい。
契約解除のリリースを目にして、改めて頭の中に浮かんできたのが、松橋優安の名前だった。
城福ヴェルディのあまり語られない特徴として、基準に満たない選手へのシビアさがあったと、個人的には思っている。
彼が就任した2022年夏、当時18歳だった阿野真拓は、いくら藤吉さんが指揮を執るチームとはいえ、3カテゴリー下の地域リーグへと移籍した。2023年、獲得にそれなりのお金をかけたであろうマリオエンゲルスは、半年で契約解除となった。功労者であった小池純輝と梶川諒太は、ともにヴェルディの選手としてJ1のピッチに立つことは叶わず、その半年後には平智広もクラブを離れることになった。J1基準に満たないと判断された選手たちは、彼らとタイミングを同じくして、チームを去った。情熱の裏に、確かに冷徹さが存在した。
そんなチームにおいて、松橋優安はのし上がった。ライン間でボールを受けるのを得意としていた1.5列目のアタッカーが、サイドをひたすら上下動し、激しい競り合いも厭わず、時にサイドバックまでこなす汗かき役へと変貌を遂げた。並々ならぬ努力だったであろう。
その現象自体は、理想的なチームのあり方を示していた。序列最下位だった選手がここまでやれるんだ。これが「誰にもポジションを約束しない」という根拠だ。実績の有無など関係ない。その言葉には、強い説得力があった。
だがそれは、誰もが松橋優安になれることを意味しているわけではない。
以前、別記事でも書いたのだけれど、
城福氏は、決して選手のやりくりが巧みなタイプではなかったと思う。
出場機会に飢えた若い選手を焚きつけるのは上手だったけれど、かといって、彼らのウィークポイントに目を瞑って大抜擢するようなケースは少なかった(そんな余裕はなかったという方が正しいかもしれない)。選手の弱点を隠すような采配だったり、妙手といえるコンバートだったりといった引き出しも、そこまで多くはなかったと思う。
既にJ2レベルでは違いを示していた選手、もしくは年代別代表に選ばれるような才能の持ち主たちを、彼らのハングリー精神に訴えかけながら、常軌を逸したハードワークをさせることで、勝ち点をもぎ取ってきた。そんなチームだった。
それが、松橋優安という特異な成功例がもたらした弊害なのだろうか、これまで実績を残せていない選手でも、伸び悩んでいる選手でも、城福さんならなんとかしてくれる、チームに組み込んでくれる、とでも言わんばかりの、歪な編成が続くようになっていった。積極的な新陳代謝を図ってきたチームが、選手の成長のために一定の猶予を与えるチームへと、徐々に変わっていった(これに関しては、秋春制への移行という特殊な時期ゆえに、そうせざるを得なかった面もあると思うけど)。
本来はもっとシビアな監督であり、それゆえに規律が保たれていた側面はあったと思うのに。
その歪みが、この夏の怪我人続出でいよいよ顕在化した。百年構想リーグで結果を示せなかった選手たちに賭ける以外、手がなくなってしまった。それは彼の責任なのだろうか。
率直に言うが、ここ2シーズンのフロントの動きに、僕はかなりの不満を抱いている。
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もうひとつ、語りたいことは、クラブのハード面の話だ。
城福氏が求める高い基準は、決してピッチ上だけにとどまらなかった。彼は事あるごとに練習環境の拡充を強く訴え続けた。
「僕らにとってグラウンドというのは今日明日の話。5年先、10年先のクラブの規模の話ではないので、あれだけ我々は練習が全てで、練習で日本一になって対等に戦いたいということをずっと言ってきたなかで、この状況は厳しい…。つい先日に練習試合をやってきた相手のグラウンドと比べて選手がどう思うのかと、それをクラブの幹部がどう考えているのかと。おそらくその差さえも知らないのではないかという意味では、僕は中長期の戦略のことは何も否定しないですし、それはクラブの幹部がやってくれればいい話であって、我々が戦っているのは今日明日。それは僕の立場として声を大にして言いたい」
東京Vの城福監督が練習環境改善へ切実な訴え…「我々が戦っているのは今日明日。自分の立場として声を大にして言いたい」 | サッカー
彼の言葉は、表面的にはフロントに向けられていたものの、実際にはその奥にいる関係者たちを見据えていたのだと思う。これまでの経験に裏打ちされた彼の発言には、強い説得力があった。その情熱は事態を動かし、ヴェルディトップチームの練習場が聖地プリメーラに戻ることも決まった。これは城福氏にしかできない芸当だったと思う。
ただし、クラブが進むべきビジョンを描き、その達成に向けて邁進するのは、監督が担う仕事の範疇ではない。とはいえ、彼の熱意なくして、物事はなかなか前に進まなかったのも、また事実だったと思う。
実質的に、城福氏はクラブの中長期的なプロジェクトのキーマンになってしまっていたのではないか。だからこそ、本来であれば進退を問うべきタイミングであった2025年オフにも、決断が鈍ってしまったのではないか。フロント自身が最も彼の熱意を必要としていただろうから。
まあ、これは憶測でしかないが、本来の範囲を超えるタスクを彼に背負わせていたのではないかと、そんなことも思う。
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とはいえ、最終的に、シーズン中の解任に至った。
その前に敢行した大型補強といい、いよいよフロントが腹を括ったということだと思う。その決断自体は好意的に受け止めている。仮にJ1に残れなかったとして、それを「城福監督でもダメだった」と結論づけるほうが、はるかに楽だったはずだ。彼らは、その道を選ばなかった。それならもう少し早く決断してくれればとは思うが、それでも遅すぎることはない。
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そして、新たな旅路が始まる。
本日、新監督として、相馬直樹氏の就任が発表された。
個人的には、現在のハードワークを基調とするサッカーを継承しつつ、チームに失われつつあった躍動感を取り戻すための、納得感のある人事だと思っている。
まずは、これまで積み重ねてきた全員のハードワークに基づく「前線からのプレスの連動」による守備を再整理し、「失点ゼロ」に徹底的にこだわること。そして、高い位置で奪ってからのショートカウンターによる得点力を取り戻すことです。
彼のスタイルについては、以下の記事に詳しい。ぜひ読んでみていただきたい。
それに、J2時代を知るサポーターであれば、彼の作り上げるチームのことはよく知っているだろう。
町田ゼルビアがまだJFLにいた2010年、彼が率いるチームは天皇杯でヴェルディを破っている。
そして、J2で再び相まみえた2016年には、これまた我がクラブに2戦2勝と圧倒している。特に、その年最初の対戦となったホーム味スタでの試合は、超コンパクトな陣形を敷き、次々と自陣内になだれ込んでくる町田のアグレッシブさに面食らい、セカンドボールをほぼすべて回収され、0-1というスコア以上の完敗を喫した記憶がある。
(逆に、翌2017年は、ロティーナが縦横圧縮のチームに対する鮮やかな解法を披露し、ヴェルディの2戦2勝とやり返している)
相馬監督には、城福氏がクラブに植え付けようとした哲学を継承しつつ、あの時のような対戦相手が気圧されるサッカーを、ヴェルディでも披露してほしい。ついでに、教え子である上田綺世や町田浩樹あたりを連れてきてくれると、もっと嬉しい。
ただ、クラブの哲学を定義し、それを植え付けるのは、本来フロントの仕事だ。
「靴一足分寄せる」「頭から湯気を出して練習に取り組む」「最後まで走り切る」
— 緑がちる (@MidorigaChill) 2026年10月5日
城福さんがこのチームに根付かせようとした意識を、真にクラブのフィロソフィーとして定着させられるのか。彼と袂を分かつことを決断した今、それはフロントのとても大事なミッションになると思う。
どんなに優秀な監督でも、賞味期限は存在する。城福氏の手腕をもってしても、選手たちに意識を徹底させるのは4年間が限界だったのだ。それでも、クラブが歩みを止めるわけにはいかない。迷子になるわけにはいかない。クラブのトップであるフロントが、確固たる指針を定義し、それを示す必要がある。
本当に難しい仕事だろうとは、よくわかっている。親会社のこれまでのサポートも、栗田副社長がヴェルディに入った決断の重さも、江尻強化部長が成し遂げてきたことの偉大さも、よくわかっている。クラブのマンパワーだって絶対に足りてない。それでも、さらに無理をお願いしなくてはいけない。もうJ2に落ちてうなだれる選手たちを見たくないんです。この3年間を泡沫の夢で終わらせたくないんです。迷走するクラブに戻ってほしくないんです。なにより、その迷走の果てにあった「消滅危機」。あれだけは、二度と起こしてはいけないんです。J1に昇格し、たくさんの人で溢れかえるようになったスタジアムを見てもなお、僕はその恐怖感と常に隣り合わせでした。
それにしても。
城福ヴェルディを追いかけられたこの4年間は、本当に楽しかった。黄金期のように強いチームだったからではない。戦術的な魅力を有していたロティーナ時代とも違う。時には負け試合すらも、魅力的だった。そして、稀に見る勝負強さを持つチームだった。楽しかった。楽しかったなあ。こういう唐突な別れにはとっくに慣れたつもりでいたけれど、いざ直面してみると、やっぱり感情的な言葉しか出てこねえんだよな。
この文章に綺麗なタイトルもつけられない。それは、この終焉を心のどこかで受け入れられていないからであり、そして、感傷に浸っている場合ではないからというのもある。
チームの闘いは、ここからが本番だ。俺たちは彼らを支えなくてはならない。覚悟を決めたフロントを、茨の道を承知で任を受けてくれた相馬監督を、そして、自信を失いかけているように見える選手たちを、支えなくてはならない。
支えなくてはならないのだ。ともに戦わなくてはならないのだ。俺たちは、決してエレベータークラブになってはいけないのだから。
リーグ戦は既に8試合を消化。得た勝ち点はわずかに4つ。得点数も4つだけ。あまりにも厳しい現実がそこにはある。それでも、僕は(今年は無理だろ)と斜に構えるつもりはない。
その無意味さは、3年前にとっくに学んだはずだ。


