そうですか。そうだよな。覚悟はしてたんだけどね。
続くコロナ禍に翻弄され、東京五輪という一大イベントの影響も受けながら、
昨日12月4日、2021年のJ1が閉幕。川崎フロンターレ、改めて優勝おめでとう、早くリーガに行け。
J2民としては正直こっちのほうがよっぽど気になる残留争いも遂に決着、
既に降格が決まっていた横浜FC、仙台、大分に続き、
残念ながら徳島ヴォルティスが降格決定と相成り、J2に四国の火が灯り続けることが決まった。
そして、同じくこの日、我々東京ヴェルディの第1弾戦力外が発表された。
GK 柴崎貴広
DF 富澤清太郎
DF 福村貴幸
FW ジャイルトンパライバ
予想はしていた。けれど、改めて彼の名前を見たときに、去来する思いは自分が思っていた以上に複雑だった。
柴崎貴広。39歳。
2001年に東京V入団。途中FC東京や横浜FCへ籍を移すシーズンもあったものの、延べ20年、ヴェルディとともに彼はいた。
通算出場試合数は146試合。
決して華々しいキャリアではないかもしれないが、これだけの年数にわたって常に現場から必要とされた事実が、
彼の選手としての価値を物語る。
正直に言う。申し訳ない。
俺は長い間シバが嫌いだった。
自分がヴェルディを応援し始めた2003年、
彼の華のあるプレースタイル、人間性(そしてユニの色)と比較して、
柴崎貴広はガキの自分にとって「じゃないほう」のGKだった。
190cm近い体躯とその存在感が比例しない。
試合前練習の姿もどことなく自信なさげに映った。
オリバーカーンによって、「GK=コワモテであることが必要条件」という固定観念が刷り込まれていた俺にとって、
何とも言えないあの頼りなさげなオーラが好きになれなかった。
2004年から2年間、柴崎は横浜FCへレンタルに出され、その後戦力外通告を経てFC東京に拾われ、2007年にまたヴェルディに戻ってきた。
この辺の経緯は正直良く覚えてない。
義成→土肥というヴェルディ守護神の系譜ははっきり覚えているが、
彼らの控えが柴崎だったのか水原だったのか、その辺はもう曖昧な記憶の中でしかなく、今wikiを見ながら当時を振り返っている。
「控えGK」の烙印を押されていた柴崎にとって、
一世一代のチャンスとなったのは、やはりあの2011年シーズンだろう。
元日本代表の実力者土肥が、5月の東京ダービーでアキレス腱断裂の大怪我。
急遽2ndGKだった柴崎にお鉢が回ってきた。
正直あの年は多士済々のアタッカー陣、
そしてカンペーバウル森勇介中谷(だっけ?)というものすごくチンピラ味がやばい最終ラインの印象がとにかく強かったけど、柴崎のパフォーマンスはよかったと思う。
「セービングだけなら土肥さんと遜色ないじゃないか」とか「ちゃんと土肥じらしを受け継いでるじゃないか」とか、
とにかく世代交代(といっても柴崎ももう30歳目前だったが)の息吹を感じさせてくれたものだった。
彼自身も試合経験からくる貫禄が感じられるようになっていたし、
この頃から、親しみを込めた「シバ」と言う呼称が、俺の中でしっくりくるようになった。
問題だったのが2012年。
カンペーや河野を失ったものの、元日本代表の西を獲得し、五輪代表に選ばれた杉本健勇も在籍。
近年では2018年と並んで最も贅沢な戦力を有した年と言えるだろう。
しかし、チームは昇格争いを演じていたものの、とにかく失点が多めだった。
守備陣との連携ミスだったり、彼自身の判断ミスだったり、
彼だけが原因ではなかったのだろうが、とにかく安い失点が増えた印象だった(この辺は正直ちょっと記憶があいまい。もし自分の記憶違いであれば申し訳ない)。
おそらく最終ラインを統率していたカンペーが抜けた影響もあったろう、
シバの顕著な弱点である「コーチングが控えめすぎる」という点が、日に日に悪目立ちするように思えた。
傍目からでも、彼が昨年掴みかけた自信が失われつつあるように見えたし、
事実後半戦は怪我明けの土肥さんにレギュラーを取り返され、そのままシーズンを終えている。
前年の期待値があった分余計に、彼に対する気持ちは一気に冷めてしまったし、
ともに観戦していた母も、スタメンに彼の名前が並ぶと
「今日はシバかぁ、頼りないなあ」とぼやいていた。
あと、これは全くもって彼に責はないのだが、
サポーターが彼に送ったチャント「森のくまさん」が、
変なプライドの持ち主の俺にはどうにも歌うのが恥ずかしくて、そこもちょっと好きではなかった。
せっかくV系好きなのだから、そっち方向に絡めたチャントにしてあげればいいのに、とか思ったり。
ちなみに、同じくネタチャント的な立ち位置だった和田拓也のきゃりーぱみゅぱみゅは大好きだったのだけど(笑)
この年は結局川勝監督が解任され、
翌2013年に北九州からご存じ三浦泰年新監督が来たのですが、
その際にGK佐藤優也を引き抜けたことが、自分にとって一番嬉しいニュースであった。
そう、佐藤優也。
彼はヴェルディのGK史において一つキーマンとなる存在であろう。
彼以前のGKは、(シバも含め)ローリスクなプレー選択でゴールマウスに鍵をかける「守備型GK」が多かったのに対し、
佐藤優也は、広い守備範囲を誇り、ビルドアップでもチームに貢献する、アグレッシブなタイプのGKだった。
佐藤優也がいた2013年から2015年の3年間、シバは常に控えに甘んじていた。
たまに天皇杯で出場機会を得ては、北九州に敗れたりしていた。まあそれはシバだけのせいではないのだけど。
何せ優也のように積極的にビルドアップに関わりたがるプレースタイルに慣れてしまうと、
シバのような足元のあまり得意でないタイプのGKには、観ている側ももう戻れないだろうなぁ、と思ってしまっていた。
2016年、佐藤優也はジェフ千葉に引き抜かれていき、シバにチャンスが巡ってきた。
競争相手はマリノスから期限付きでやってきた若手の鈴木と、
岐阜との契約が満了しフリーで加入した太田。
お世辞にもレベルが高いレギュラー争いとは言えなかったし、何だかんだシバに頼らざるをえないよなあ、などと思っていた自分は、
その年の開幕前キャンプの選手たちの姿を見て、その中に体が絞れていないシバの姿を認めて、深く落胆した。
試合の映像を見ても、体のキレが明らかになく、新シーズンに臨む覇気も感じられず。(この辺は俺のバイアスがかかっていただけ、といわれたら首肯せざるをえないけど)
はっきりと「だからいつまでも控えGKから脱せないんだよ…」と心のなかで悪態をついてしまったのだ。
実際このシーズンのヴェルディは、残留争いに巻き込まれるほど不調を極めており、
彼自身もパフォーマンスはパッとせず、(確か怪我もあったっけ?)シーズン途中から鈴木にポジションを明け渡した。
本当に失礼ながら、本当に偉そうながら、この時思ったのだった。
「シバを使ってるうちは、ヴェルディに先はないな」と。
一方、これも2016年だった、と記憶しているのだけど、
どことの試合の後かももう忘れてしまったが、
あの頃ヴェルディがやっていた「選手お見送り」(ベンチ外の選手が試合後の退場ゲートのところで観客とハイタッチしてくれるファンサービス)の場で、
老若男女のサポーターに丁寧に丁寧に対応しているシバの姿を見た。
確か負け試合かなんかで、半分絡みに行っているようなサポもいたのだけど、
彼は熱くもならずかといって冷めてるわけでもなく、持ち前のおおらかな雰囲気で「まぁまぁ」とうまく対応していたりして。
「こういう人柄があるから、チームには残れるんよなあ」とか、皮肉な納得の仕方をしたりしていた。
そして、転機。
2017年、欧州での指導実績も十分なロティーナがヴェルディの監督に就任。
(現代サッカーにおける潮流ではあるが)彼はGKにも多くを求めた。
以下引用。
「川勝さん、冨樫(剛一元監督)さんは、僕ができることを求めてきたけど、ロティーナ監督やイバンコーチは、自分たちが求めていることを徹底的にやらせる感じだった」
GKもポゼッションに加わるスタイルだっただけに、これまではそれほど強くは求められてこなかった足下の技術を、フィールドプレーヤー並みに必要とされた。
他にも、パンチングの方向、「◯◯はするな」、「こういう場合はこうしろ」などの細かな決まりごとやコンディショニング面に至るまで、要求されることが多い中で全試合フルで起用されたことは、かつてない喜びだった。
「ゴールキックから戦術が始まっていましたし、そのパターンが何個もある。
それを、試合当日になって『今日はこれでいくから』と、突然変えたりする。
『こういうスタイルもあるんだなあ』と本当に勉強になりましたし、毎日の練習もとても楽しかった。監督やコーチの存在がこんなにも大きいのだと改めて思いました。
もっと早く二人に出会っていろいろなことを教えてほしかった。
そして、もっと現代的なGKになりたかったです。
若い頃からこういうプレーができたら、きっと、もっと違った世界が見られて楽しかっただろうなあ」
オフィシャルマッチデイプログラムWeb連動企画(6/2)柴崎貴広 | 東京ヴェルディ / Tokyo Verdy
白状する。俺はこの年のヴェルディの正GKは、セレッソから移籍してきた武田になると思っていた。いや、願っていた。
シーズン前の練習試合でのコーチングの鋭さに圧倒されたのも理由の一つだが、
それ以上にシバに対してもう信頼を寄せられなかったのが大きな理由だった。
せっかく欧州の名将を招聘したとて、成長の見込めない彼がゴールマウスを守るままでは上にはいけないだろう、と。
ならば、同じベテランとはいえJ1チームにいた武田にヴェルディを託してほしい、と願っていたし、
彼でダメならひょっこり佐藤優也が戻ってきたりしねえかな、とか思ったりしていた。
しかし、シバは首脳陣からの厳しい要求に応えてみせた。
その時既に35歳。
だが、試合を追うごとに彼の足元の技術は劇的に向上を見せていくのが、観客席にいる俺にもはっきり分かった。
今までプレッシャーをかけられたら大概遠くにボールを蹴り出していた彼が、
切り返しでプレスをいなし、空いている味方に冷静にパスをつけてみせたり、
相手プレスを無効化する「一列飛ばしのミドルパス」などという、おおよそ今まで彼と縁のなさそうな芸当も見せてくれた。
そうなると、元々強みとしていたシュートストップもますます凄みが増して見えてくる。
柴崎は全試合ゴールマウスの前に立ち続けた。
この年のサッカーに魅せられて、今までと比べ物にならない頻度でスタジアムに足を運んでいた俺も、
「森のくまさん」を恥ずかしげもなく大声で歌うようになっていた。
昇格の夢はプレーオフ1回戦で冨安とかいう化け物を擁したアビスパ福岡に打ち砕かれ、迎えた2018年。
ヴェルディは目指すサッカーのさらなるブラッシュアップを図るべく、
新戦力のGK上福元を大分から迎えた。
GKにしてはやや小柄だが、ボールへの反応はピカイチ。そして何より、足元のスキルに優れた最先端のGKだった。
もちろん、まだまだ発展途上にあった柴崎のスキルと比較して、よりビルドアップ能力に優れたGKを、というリクエストはロティーナから発せられたものだったろう。
しかしながら、開幕戦に上福元を起用した指揮官が残したこのコメントも、リップサービスなんかでは決してなかったはずだ。
「シバ(柴崎貴広)は、昨年すばらしい仕事をし、よいシーズンを送りました。ここで、タイプの違うキーパーであるカミを試してみたかった。われわれは常に落ち着いていられます。なぜなら、シバがいつでも用意できているからです」
2018年、ヴェルディの守護神は最後まで上福元であり続けた。
かの思い出したくもない磐田の地で、昇格の夢はまたしても破れた。
柴崎は最後まで2ndGKとしてチームを支え続けた。彼の存在もまた、悲願まであと一歩のところまでチームが迫れた大事な要因であっただろう。
2018年オフにロティーナが去り、2019年オフには上福元も徳島ヴォルティスへと去っていった。
代わりにブラジルから助っ人GKマテウスが加入。2020年開幕直後こそ柴崎がスタメンの座を奪還したが、しばらくして守護神の座は彼の手にわたった。
ただ、彼にとってキャリアのピークであった2017年からの5年間。
俺にとってシバは「何かあってもシバがいれば大丈夫」という、信頼できる大ベテランになっていた。
頼れる存在であったのは、ピッチの中だけではない。
昨年コロナ禍によりシーズンが中断、先の見えない不穏な情勢の中で、
SNSでスポンサー様に関する発信をし続けたのが、シバだった。
サポーターも不安な日々を送る中、チームとスポンサー、サポーターとスポンサーを繋いでくれるこのような投稿を見て、
「やはりヴェルディには彼がいてもらわないとな」と心から思ったし、
5年前、サポーターに接する彼の姿を斜に構えて見ていた自分の浅さを、心から心から恥じた。
ありがたい差し入れが届きました!!
— 柴崎 貴広 (@shibasaki26) 2020年4月28日
あの美味しい人形焼!!
#江戸祭人形焼
#株式会社ショウエイ
子どもたちも大喜び😊
ネットショップからも買えますよ!https://t.co/00b69ePPL8 pic.twitter.com/gNktIEUoC7
注文してたキボンのブラジル料理が届きました!
— 柴崎 貴広 (@shibasaki26) 2020年5月13日
ヴェルディサポーターの皆さんは、もう食べたかな?
ブラジル料理が好きな人にもおすすめです!
ほとんど調理済ですよ!
#quebom
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#ブラジル料理 pic.twitter.com/4Z73WL5hnv
本日2021/12/5(日)。ホーム相模原戦。
味スタへと向かう京王線に揺られながら、チーム情報に疎い母親に俺は話した。
「シバ、今年で契約満了。いなくなっちゃうってよ」
ディエゴソウザのような濃い顔をした母は、目を見開いた。
「えっ・・・」
完全に余談であるが、母の好きな男性のタイプは中澤佑二なのだが、
どう見ても俺の父親は中澤などではなく名波浩であり、好みの範疇から全く外れているといっても過言ではない。頑張れ松本。
そして、その二人から生まれた俺は熊本FWの髙橋に似ている。ドラクエモンスターズの配合表にでも付け加えておいてほしい。そして昇格おめでとうロアッソ熊本。
ディエゴソウザはしんみりとつぶやいた。
「あのチャント、もう一度歌いたかったよねえ・・・」
かつてシバを「頼りない」と断罪していた我が母も、
長い時間を経て、彼をチームになくてはならない存在と位置付けていたのである。
「そっか、スタジアムはまだ声出せないんだもんね・・・」
あれだけサポに気さくに接してくれた彼の退団に際し、
彼に声をかけることができないこんな状況は、本当に皮肉なものである。
ヴェルディでの最後の日、彼はスタメンで3-0の快勝に貢献した。
2017年以降の、あの「頼れるシバ」のパフォーマンスそのものであった。
彼はまだやれると思う。そう確信を深めるパフォーマンスを、苦楽を共にしたヴェルディサポに披露してくれた。
熱くもならずかといって冷めてるわけでもなく、いつも通りのテンションで。
試合終了後、ピッチを一周するヴェルディの選手たちに向けて、
契約満了が発表された4人の選手のチャントの録音が、味スタに響き渡った。
とても粋な演出だったし、クラブスタッフに感謝したい。俺も(心の中で)大きな声で「森のくまさん」を歌っていた。
ただ、やっぱり、生のチャントを彼に聞かせたかったな。歌いたかったな。
彼への精一杯のはなむけとして。
そして、かつて「彼が嫌いだ、彼ではダメだ」という思いを抱いたことへの、
とても手前勝手な贖罪の意味も込めて。
クラブは彼に引退後のポストを用意しているのだという。
彼もまた、その選択肢にも心を動かされつつ、現役続行の意思との間で揺れているようだ。
俺個人としては、シバには現役を続行してほしいと思っている。
今の彼なら、新たな指導者との邂逅によって、まだ成長できるポテンシャルすらあると思っている。
なにより、また何の気兼ねもなく声が出せるスタジアムに戻った時、
改めて彼に「お疲れ様」と声をかけたいからだ。
ともあれ、今かけられる精一杯の言葉を、記させてほしい。
シバ、今までありがとう。大好きな選手です。これからも、ずっと応援しています。
2021/12/5 柴崎貴広の退団に寄せて。